2023年、映画館で観た映画の1本目は「カンフースタントマン 龍虎武師」でした。多くの方は、香港映画という言葉からカンフー映画を連想される、と思いますが、今作は、そんなカンフー映画に欠かせないアクションシーンを影で支えたスタントマンたちの活躍をドキュメンタリータッチで描かれた作品です。

憧れの街 香港

僕の映画館デビューは「植村直己物語」でしたが、それは親父に(無理矢理)連れて行かれたわけで、自分から観たいと思って初めて映画館で観たのは、小学校6年生の時の夏休みに観た「プロジェクトA2」でした。それ以降、以前にも増してテレビでジャッキー・チェンの映画を観まくり、アクションに魅了されまくり、そして、それはいつか香港という街への憧れに変わっていきました。当時、僕が観ていたのは東洋のハリウッドと呼ばれていた香港映画界の華やかな部分。今作では、まさに当時最前線にいたスタントマンから、その華やかさの裏には綺麗事だけではない事情があったことが語られています。そして避けようのない社会の変化により香港映画は…。

懐かしい面々

ジャッキー映画では、例えばある作品ではラスボスだった役者さんが別の作品では名もない端役だったりすることが多々あるんですが、今作を観て、彼らは元々はスタントマンだったことが分かります。代表例として、プロジェクトAのラスボス、海賊のロー親分を演じたディック・ウェイや、プロジェクトA2で悪徳警察署長のチンを演じたデビット・ラム、彼らはともにサイクロンZにて酒場で乱闘騒ぎを起こす連中で出演されています。で、僕が特に個人的に大好きなのがユン・ワー。ジャッキー映画ファンの方ならおそらくご存知のはず。同じくサイクロンZで悪徳企業の社長ファー、ポリス・ストーリー3でジャッキーが脱獄させた悪党パンサーを演じた方です。一昨年、ユン・ワーはMarvelの「シャン・チー」に出演されましたが、僕はそのことを事前には知っておらず、映画館でそのお姿をこの目で見た時、スタンディングオベーションしそうになりました。これって、日本で言うところの、斬られ役一筋だった東映太秦の福本清三さんが「ラスト・サムライ」に出演したのと同じくらいの快挙だと思うんですよね。まぁ、それはさておき、本当に懐かしいお顔をたくさん見ることができるので、往年の香港映画ファンなら思わずニヤリ、懐かしい気持ちで胸が熱くなること間違いないです。

今も受け継がれるイズム

そんな僕もいつしかカンフー映画をあまり観なくなるわけですが、「恋する惑星」や「インファナル・アフェア」など、カンフー映画以外の香港映画は観続けていました。今作を観て新しい発見があったのですが、それは「インファナル・アフェア」の監督であるアンドリュー・ラウ、出演していたエリック・ツァンの映画人としての原点がスタントマンにあったこと。おふたりは今作にも出演され、生々しく、まさに香港映画の歴史の生き証人のごとく、当時のことを語っておられます。時代が変わり、その当時とは制作スタイルや表現方法、香港映画のメインストリームが変わっても、その頃のイズムはまだ生きている。変わらないといけない、でも変わってはいけない。そのことに鳥肌が立つほど感動しました。どんな仕事においても、大切なのは思いであり、気持ちであり、情熱なんだな、と改めて感じさせてくれて作品でした。