ウォン・カーウァイ監督の5作品が4Kになって映画館に帰ってくる、その名もウォン・カーウァイ4Kというイベントが8/19から全国各地で始まりました。思えば1年前、ジム・ジャームッシュ監督の作品が映画館に帰ってくる、JIM JARMUSCH Retrospective 2021というイベントが開催されたとき、次はウォン・カーウァイ監督の作品でこんな感じのイベントやってくれないかなぁって思っていたので、まさか僕の願いが届くなんて、とテンション高めで映画館に行ってきました。

恋する惑星と天使の涙を同じ日に続けて観る意味

ウォン・カーウァイ監督作品は、今回のイベントにラインナップされていないものも含め、ほとんど観ていますが、今回、特に思い入れがあり、僕の思い出とも深く関わっている「恋する惑星」と「天使の涙」を同じ日に続けて観ることにしました。そう、あの夏の日と同じように。あれは確か僕が大学4年の夏、公開当時、リアルタイムで映画館に足を運ぶことができず、残念ながら大きなスクリーンで観ることができなかった「恋する惑星」と「天使の涙」が、街の中心から少し離れた小さな古い映画館で2本立てで上映されているを知り、このチャンスを逃すものかと観に行ったのです。両作品のビデオをレンタルしてきて、ひとり暮らしの部屋の小さなテレビデオで観る。そんなことを繰り返しながら、香港への憧れを募らせていた当時の僕。同じクラスの女子から「一緒に香港に行こうよ」と誘われたものの、そのとき付き合っていた彼女の許しが出なかったのも勿論のこと、仮に許しが出たとしても金銭的な理由でその誘いに乗ることができなかった貧乏学生だった当時の僕。そんな僕にとって、小さな映画館の、それでもテレビよりは遥かに大きなスクリーンに映し出された香港の街は、まぶしいほどに輝いていました。できることなら返還前の香港を訪れたかった。その夢を叶えることはできなかったけど、大好きな作品を大きなスクリーンで観ることができたこの日の出来事は、今でも鮮明に思い出すことができる、大切な思い出のひとつ。そんなわけで僕はこのイベントで、当時とは比較にならないくらいクリアな映像に生まれ変わった作品を改めてこの目に焼き付けつつ、あの夏の日の思い出を追体験しようと考えたのです。

映画の中に入り込んだかのような錯覚

4Kリストアではあるものの、残念ながら僕が行った映画館では2K上映だったんですが、それでもあの小さな古い映画館のスクリーンよりも、ブラウン管のテレビデオよりも美しく、2002年、実際に香港を訪れたときに見た風景の記憶の解像度が一致し、まるで映画の中に入り込んだかのような錯覚に陥りました。というのも、実際に香港を訪れることになったとき、事前にガイドブックを漁りまくって場所を特定し、ここぞとばかりに、恋する惑星のロケ地を巡りに巡り、巡りまくったのです。その中でも、特に思い出深いのがミッドナイトエクスプレスの前の坂道。トニー・レオンがメモを取りつつ、その坂道を下りてくるシーンを改めて観たとき、レストアされた映像と完全に僕の記憶の解像度が一致。あー、俺、確かにここに行ったなぁ。その場に立てたとき、最高に幸せだったなぁ。そんな思いと一緒にいろんな思いが頭を巡り、味わったことのない不思議な感覚に陥りました。そう言えばその旅行中、クリストファー・ドイル気取りでビデオカメラを回しまくったんだけど、そのテープどこ行ったんだろ。編集してDVDにしたはずなんだけど、ちゃんと残しておけば良かったなぁ。今回、恋する惑星と天使の涙を2本立てで観たあの夏の日を追体験することで、実際に香港を訪れたときの思い出も追体験することができ、そしてこの出来事が、新しい大切な思い出として、しっかり僕の心に刻まれました。ウォン・カーウァイ4K、このイベントに関わってくださったすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。最高の思い出をありがとうございました。